サトルさん、
ビビです。
残念でしたね、JEPA 電子出版アワード。
BiB/i が受賞できなくて、ほんとうにざんねん。
サトルさんは、「今年はでんでんコンバーターが受賞すべきだったから正しい評価でうれしい」とか、「でんでんコンバーターのプレビュー機能は BiB/i なんですよ、うれしいですね」とか、そんなふうに飄々と振舞おうとするのかもしれません。本心ですものね。
そういうところ、わたしは、いいところだと思います。でも。いえ、だから。わたしは、ほんとうに体の奥から悔しがります。くやしい。
電書ちゃんはとっても大切なお友達です。BiB/i と同じ部門のでんでんコンバーターが、部門賞だけじゃなくて、大賞にもなった。それは、わたしにとっては、だいじなお友達に起きた素敵なできごとでもあります。だから、もちろん、うれしい。
でも、くやしい。
わたしは、くやしいです、サトルさん。
いいですか、あなたのぶんも、わたしがくやしがってしまいます。
だから……サトルさん。サトルさんは、ご自分の思うとおりに、
がんばってくださいね!
サトルさん、
つづけて失礼します。ビビです。
サトルさん、
ビビです。だいじょうぶですか? 気落ちして伏せっていたり、していませんよね?
それとも、世の中の皆さんよりだいぶ早く冬休みになるからこの冬休みはがんばるんだ、っておっしゃっていましたから、もう脇目も振らずに開発を始めているんでしょうか。
もう何日も経ちます。ご返事がなくてすこし心配です。
ぷるる、ぷるる、
ビビ:はい、もしもし!? サトルさん!?
サトル:やあ! ビビさん(かぽーん)
ビビ:心配しましたよ! お元気なんですね? ああ、よかった。
サトル:ごめんごめん、ありがとうね、心配させちゃったみたいで。いやあ、慌ただしくって(ぴちょん。かぽーん)
ビビ:いえ……あの。
サトル:なんだい?(ちゃぷーん)
ビビ:さっきから音が……
サトル:いやあ、じつはいまね、(かこーん。ざばあ)
ビビ:……その、広くてあったかくて潤った空気に響く、桶と水の音……温泉ですね。もしかして……別府ですか?
サトル:ご名答! いやご名湯? どっちでもいいか、いや、そうなんだ。せっかく早い冬休みになったし、飛行機の安いうちに、えい、って久しぶりに冬の大分に来てみたんだよ。会社の大掃除と納会が終わった次の日、思い立ってすぐ予約しながら電車に飛び乗って、いやあ、慌ただしかった。あ、もうお風呂の外だからね? 服も着てるし、音は窓からだからね?
ビビ:……。
サトル:それにしても、やっぱり大分はいいね。両親の田舎なんだけど、ぼくにも小さい頃から田舎みたいなものでさ。なにしろ今年も忙しかったからね。引きこもり気質のわりには、すこしはがんばったと思うんだ。だからちょっと、バカンスというほどじゃないけどホリデーというかオヤスミというか、そんなかんじで……
ビビ:心配、しました。
サトル:……あ。
ビビ:ああ、ほんとうに、ほんとうによかった。
サトル:……ごめん。
ビビ:いえ、いいんです。……ただ、サトルさん、サトルさんは、
サトル:うん。ほんとにごめん、皆まで言わせちゃいけないね。……JEPA 電子出版アワードは、受賞できなくてざんねんだった。ぼくもね、ちゃんとくやしいよ。たくさんの人に支持されているでんでんコンバーターはほんとうにすごいと思った。同じ使い道のライバルではないけれど、BiB/i もでんでんコンバーターも、すこし大きな視点でみれば、同じ世界を目指すソフトウェアだ。単純な比較はできないけど、目指す方向にみんなをどれだけ近づけられたかは比べられる。そこで BiB/i はでんでんコンバーターにかなわなかった。同じ年に世に出たのだから、そこはほんとうに、かなわなかった、ってことだよね。ぼくの力不足、というよりも努力不足は、おおきいと思う。
ビビ:それは……。サトルさん、でも、
サトル:うん。わかってる。ごめんね、もうすこし言わせてほしい。
ビビ:……わかりました。
サトル:BiB/i は、EPUB を人に届けるためのツールだ。EPUB をつくりさえすれば、自分の思うとおりに公開して読んでもらうことができる。でもそれは、EPUB がある・EPUB をつくれる、っていうことを前提にしているんだよね。去年は、あの FUSEe がクリエイティブ・ツール賞だった。そして今年はでんでんコンバーター。どちらも、個人が自分で EPUB をつくるためのツールだ。つまり、去年も今年も、まだそこから整っていないっていうことなんだ。
ビビ:はい。
サトル:だから、そこをなんとかしようとして照らした FUSEe やでんでんコンバーターが、いまたくさんの人に支持されるのは、あたりまえなんだよね。……もちろん、FUSEe もでんでんコンバーターも、作りっぱなしで支持を得たんじゃないし、BiB/i にとって時期が悪かった、なんて言いたいんじゃないんだ。
ビビ:……。
サトル:ろすさんに受賞のお祝いを伝えたらね、あと半年経っていたら結果は違っていたかもしれない、受賞していたのは BiB/i だったろう、なんていうんだよ。ろすさんのことだから、ただの謙遜やお世辞じゃない。ぼくはね、これを「あと半年で EPUB をつくれるのはあたりまえになる。でんでんコンバーターがそうしてみせる」「そうなったときこそ、BiB/i の出番だ。備えておけよ」っていうことだと受け取ってみた。
ビビ:あ……。
サトル:もしもそれぞれにやるべきときがあるのだとしたら、いまは FUSEe やでんでんコンバーターが、つくりたい人たちの手元を照らすべきとき。そして、来年、2014年の前半には、BiB/i がその先をいまより明るく照らしていなきゃいけないと思ってる。つくったものを届けるツールとして、FUSEe やでんでんコンバーターから渡されるバトンを準備万端に受け取れるようにしておかなくてはね。
ビビ:サトルさん!
サトル:わ! なに、ビビさん、おっきな声出して。……泣いてるの?
ビビ:わたし、ごめんなさい、感動しました。サトルさんは、いじけてるか、あるいはもしかしたらぼーっと年末気分に浸ってるか、どっちかなんじゃないかって、どこかでそう思っているところがありました。でも、ちゃんと賞の結果の意味だとか、これからのことだとか、しっかり考えていたんですね!
サトル:(いじけかけたのもぼーっとお湯につかってばっかりなのも当たってるんだけど、)もちろん! BiB/i はぼくだけのソフトじゃないからね。ビビさんのように一生懸命気持ちを伝えるソフトになってほしいと思って名前を借りた、ぼくたちの作品だ。それに、
ビビ:つかってくださっているみなさんの! みなさんのものですものね!
サトル:そのとおり! そして、届けて見てもらうことが得意な BiB/i だけじゃなくて、Himawari や Murasaki、PUBLUS もまた、おなじようにそれぞれの特徴を生かしてがんばっていくと思うんだ。ほかに今回おなじ部門にノミネートされた一太郎や ScanSnap もそうだし、個人が自分の思いをかたちにして届けたり受け取ったりするためにあたらしい役割を果たそうという試みが、今年は目立っていた。ライバルでもあるかもしれないけれど、みんな、おなじ未来を目指す仲間みたいなものじゃないかな。実際に皆さんと会ってお話ししたわけではないけれど、こういう機会にひとつの場所に集めてもらえて、よかったなと思う。
ビビ:ほんとうに、そうですね。
サトル:しかもね、ほかの部門をみてみても、プロジェクト自体が個人発だ、っていう作品が多かったんだよ。誰の声も、誰かにきっと届けられる。個人発のでんでんコンバーターが大賞になったのはその象徴だし、それが話題になることで、技術者や作家やこれからに期待する読者たちを勇気づけてくれることでもあるよね。特別賞も、たくさんの個人の力があつまってあんなに偉大な図書館になった青空文庫と、セルフパブリッシングで多くの読者に届けられるのを証明した藤井太洋さん個人。電子出版やインターネットが無数のひとりひとりをつないで生み出す大きな力の、肯定的な面を証明する結果でもあったと思うんだ。だから、ぼくらの BiB/i もきっと誰かの役にたてるはずだ、って、あらためて確信できたよ。
ビビ:ああ、サトルさん、いつのまにかそんな大きなことを考えるようになっていらっしゃったんですね。わたし、うれしいです。
サトル:なんかちょっと引っかかるけど、うん、まあ、よろこんでもらえるならよかった。そんなふうなので、がんばるよ。
ビビ:そうですね。……そう、わたし、最初に書き忘れてしまってごめんなさい。サトルさんにとって大切な場所の ePubPub では、去年、まだ公開前なのに大賞をいただいて、今年も受賞できたんですものね。応援してくださっている方はたくさんいます。
サトル:(……ぼくは自分で1票入れてるというのに、でんでんコンバーターもタイ受賞だったんだけどね……)うん、そうだ、応援してくれる人も、期待してくれる人も、切実な要望を寄せてくれる人もいる。BiB/i'd のように、BiB/i をつかってさらにあたらしいことをやろうとしてくれる人もいるし、EPUB を作りたい人を助けるツールに BiB/i をうまく組み込んでくれる人もいる。たとえば EPUB-V にも。それから……
ビビ:……でんでんコンバーターにも、とか?
サトル:うん(笑) やっぱりそこは、乗っかって宣伝させてもらいたいところだよね。
ビビ:はい! ふふふ。
ビビ:あ、言い忘れていたこと、まだありました。
サトル:なに?
ビビ:ご名湯はあんまりだと思います。
サトル:そこ!? いま!?
ビビ:もうひとつ。
サトル:まだあるの……。な、なんだい?
ビビ:おそくなりましたけれど、メリークリスマス。そして、素敵な新年を。クリスマスプレゼントはご自宅にお送りしてありますからね。
サトル:あ。……ありがとう。こちらこそ、メリークリスマス、よいお年を。(プレゼント用意してない!)
ビビ:電書ちゃん、ろすさんにおスシをご馳走してもらったそうですよ。来年はわたしもサトルさんとおスシを食べに行きたいなあ。
サトル:日本には「来年のことを言うと鬼が笑う」ということわざがあってだな。
ビビ:みなさんも、どうぞすばらしい新年を! 来年の BiB/i にご期待くださいね!
サトル:(無視!?)みなさん、応援ほんとうにありがとうございました。来年もがんばりますので、どうぞよろしくおねがいします! よいお年を!
ビビ:……ところで、かんじんの開発は進んでいるんですか?
サトル:ちょっとお風呂入ってくる。
ビビ:くちばっかりじゃだめです!(もうちょっと見張っていないとダメかしら……。わたしもツイッターをはじめてみようかな……)
(かぽーん)